「陽が落ちる」鑑賞しました!

鑑賞した映画の感想
(ネタバレの可能性がありますので、未鑑賞の方は充分ご注意ください)
 文政12年(1829)、将軍家斉の治世、直参旗本の古川久蔵は将軍愛用の弓を傷付けた件で蟄居謹慎を命ぜられ、自宅で退屈な日々を送っていました。妻の良乃はだらけている久蔵にしっかりするよう厳しく叱責するしっかり者で、久蔵はそんな良乃に頭が上がらない感じの平凡な武家の夫婦でした。そんな中、久蔵の旧友である江藤伝兵衛は久蔵の処分が「切腹」であることを知り、翌日まで久蔵には知らせることができないので、和歌でもって切腹の件を知らせます。自己の処分を知った久蔵と良乃は翌日の切腹に向けて最後の一夜を過ごすのですが、この一夜から翌日の切腹までの過程を描いた作品がこの「陽が落ちる」です。自分はあまり時代劇の映画を見たことがなかったのですが、上映予定映画の紹介欄でこの作品を見て、なぜか心惹かれるものを感じたので鑑賞しました。
 普通に過ぎていく日常平凡な日々が突然に死をもって断絶してしまうことや自己の現在までの記憶がすべて無に帰することを久蔵は嘆き悲しみますが、そんな久蔵を厳しくも優しい言葉で勇気付け、武士として最期まで恥ずかしくない振る舞いをするよう励ます良乃の姿は本当に凛として美しく、その気高さには頭が下がる思いでした。自らも夫を失う悲しみで一杯のはずなのにそれを一切見せず気丈に振る舞う良乃の所作一つ一つに武家の妻の様式美を見ました。この良乃を演じた竹島由夏さんの演技は本当に素晴らしく、一気に心を持って行かれました。鑑賞して何日か経過していますが、今でも良乃の姿が頭から離れません。ぜひ他の作品も鑑賞したいと思います。
 全てが終わったその日の夕暮れ、一人屋敷に残された良乃は自分が久蔵にかつて贈った扇子を見て緊張の糸が切れたのか、大声で号泣・慟哭します。「あなたっ、駒之助っ(良乃の息子。久蔵の旧友江藤家に養子に行った)、しげっ(奉公人。久蔵の後を追って殉死)、どこにいるのっ!!!!」襖を乱暴に開けながら絶叫する姿を写して映画は終わります。あまりの衝撃に耐え切れず精神を病んでしまったのでしょうか、詳細は分かりませんが自分としても胸が締め付けられる思いでした。願わくば、この後の良乃の無事を祈らずにはいられない、そんな思いを抱かせてくれた本当にいい作品です。

 

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